バッハ没後250年に合わせた多くのCDの中でも、デンマークのクラシコが出したボストック指揮の《ルカ受難曲》は最も風変わりなものだろう。
はて、バッハにそんな曲があったか。あったといえばあった。それにはBWV246なる番号が与えられ、旧全集に収録されていた。
その《ルカ》をわざわざクラシコはもちだした。しかも用いられた楽譜は旧全集版ではない。それはオルフが1930年代に編曲しながら戦禍に失われた版をオルフの原稿をもとにチェコの作曲家イラーセクが復元したものなのである。そしてこのオルフ版と称されるべき受難曲の音の中身がまた異様だ。なにしろそれはオーケストラに、大げさにグリッサンドするティンパニや鐘、小太鼓、大太鼓、鈴など加え、その打楽器群を積極的に活用して、どうにも非バッハ的な、賑々(にぎにぎ)しい音の饗宴を繰り広げるのである。
いったいなぜオルフはそんな真似を?シェーンベルクが敬愛するバッハのオルガン曲を絢爛たる管弦楽に編曲したごとく、音色をふんだんにすることでバッハの音楽世界がより完璧になると思ったか。そうではないだろう。おそらくオルフはそう言う編曲によりバッハの罪を訴えたかったのではあるまいか。